フロント・玄関帳場とは

ホテル・旅館などでは、フロント又は帳場(以下「フロント」という)と言われるチェックイン業務や会計を行う場所が設置されています。

簡易宿所のカテゴリーにある民宿、ペンションも同様にフロントが設置されています。

大げさに言いますが、フロントは、日本中のどのタイプの宿泊施設(ラブホテル含め)にもその存在を確認できるものであります。

では、なぜフロントは設置されているのでしょうか?

法律的に言えば、『旅館業における衛生管理要領』といわれる一種のマニュアルに次のように規定されているからです。

「第1 ホテル営業及び旅館営業の施設設備の基準」

(玄関帳場又はフロント)

善良風俗の保持上、宿泊しようとする者との面接に適し、次の要件を満たす構造設備の玄関帳場又はフロントを有すること。

  1. 玄関帳場又はフロントは、玄関から容易に見えるよう宿泊者が通過する場所に位置し、囲い等により宿泊者の出入りを容易に見ることができない構造設備でないこと。
  2. 玄関帳場又はフロントは、受付台の長さが1.8m以上を有するなど事務をとるのに適した広さを有し、相対する宿泊者と従事者が直接面接できる構造であること。
  3. 玄関帳場又はフロントの内側にあって、受付台から適当な距離を隔てて客室のカギを保管する設備を有すること。
  4. 玄関帳場又はフロントの受付台の前の場所は、収容定員に応じて十分な広さを有し、1.6m以内には、植木、カーテン等宿泊事務に支障となる物品を備え付けてはならないこと。
  5. 旅館営業においては、玄関帳場に類する設備として従業者が常時待機し、来客の都度、玄関に出て客に応対する構造の部屋を玄関に付設することができること。
  6. モーテル等特定の用途を有する施設においては、玄関帳場又はフロントとして、施設への入口、又は宿泊しようとする者が当該施設を利用しようとするときに必ず通過する通路に面して、その者との面接に適する規模と構造を有する設備(例えば管理棟)を設けることができること。

簡易宿所(ゲストハウス)もこの規定に準じてフロント設置を求められていました。

これらが意味することは、ずばり『防犯』です。

そもそも、ホテル・旅館のような宿泊施設は、不特定多数の人が常時出入りしている場所になります。
ほとんどパブリックスペースと変わりはありません。

そのような場所において、旅館業法施行当時(昭和23年)もっともな理由を持った上で防犯上何らかの施策をすると考えると、このような有人監視にいきついたのでしょう。

今の時代であれば、もっと違う方法があるとは思いますが。

現時点でのフロント設置義務は

旅館業法改正後のフロント設置義務は、簡易宿所で条件を満たしているの場合に限り緩和されるようになりました。

その条件は、次のとおりです。

適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと。その他「第1 ホテル営業及び旅館営業の施設設備の基準」の11(玄関帳場又はフロント)に準じて設けることが望ましいこと。ただし、宿泊者の数を10人未満として申請がなされた施設であって、次の各号のいずれにも該当するときは、これらの設備を有する設備を設けることは要しないこと。

  1. 玄関帳場等に代替する機能を有する設備を設けることその他善良の風俗の保持を図るための措置が講じられていること。
  2. 事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。

この改正要領のポイントは、「望ましい」です。

端的に言うと、「フロントは設置してあるのが望ましい」ということであり、必ずしもなくてはならないわけではありません。

自治体にも依りますが、ニュアンス的には「あったらいいな」程度のものです。

各自治体でフロント設置を義務づける条例がある場合は別ですが、そうでなければ事実上なくても問題はありません。

実際には、宿泊客との面談と緊急時の対応ができることを説明できればここはクリアできます。
当然、そこには根拠となる裏付けが必要になりますが。

定員10人未満のゲストハウスでは

小規模なゲストハウスでは、不特定多数の客を宿泊させるというより建物1棟を貸切るタイプを運営手段として採用される方も増えてきています。

そのような場合、建物内にフロントを設置するのは現実的ではありません。コテージを例に挙げますと、まず宿泊建物(多くは番号が割り振られ、一部屋として考えます。)にはフロントはありません。敷地内に管理棟がありそこでフロント業務を行うことが一般的です。

つまり、敷地全体を一つの建物と捉えているわけです。

同じように、貸切タイプのゲストハウスでも、敷地内に管理棟または類似の施設をおいてフロント業務を行うことができます。

が、これは土地が余っている場合に限ったもので、町中にあるようなミニマムタイプでは難しいのが現実です。

この場合は、近隣に事務所などを置き管理者が常駐することで要件を満たすことも可能になります。

このあたりの運用上の解釈は、自治体によって幅がありますので、開業予定の自治体で確認が必要になります。

いずれにおいても、最低限の宿泊客管理体制が整えられていなければ、指導の対象になることは注意しなければなりません。